今日は遠方よりお客様がお見えになり、紅茶農園を視察していただきました。朝から雨が降ったり止んだり。まるでスコットランドのようなお天気。夜になりさらに冷え込んで、ひょっとしたら明日は雪? なんて思っていましたら、天気予報は朝の気温は今日より5℃高いという予報。やっぱり春ですね……ということで、今回は「春の気配」と題した6年前の連載エッセイをご覧ください。
(備北民報 2015年3月10日掲載の連載エッセイ「紅茶の丘の物語(第183回)」より加筆修正したものを掲載します)
季節というものは、あっという間にやって来て「何やってんの。もう春だぜ」なんていうものだから慌てて紅茶農園に出てあたふたするものなのです。なのになぜか、じっと息を凝らして季節の訪れを待っていると、いつまでたっても現れない。西洋では「見つめる鍋は煮えない」と申します。言い得て妙でございます。そんな季節の便りが紅茶農園の中に顔を見せ始めました。土と草の間から可愛らしい顔をのぞかせてくれたのは「蕗の薹(ふきのとう)」です。もう少し大きくなったら天ぷらにして思い切り早春の土の味と早春の風を蕗の薹の苦味と香りで楽しみたい。
この時候(じこう)になると、寒い冬から解放されて気持ちもすこし明るくなってきます。昔から日照が少なく寒い冬は終わりを表し、春は始まりを意味する。イギリスのみならずヨーロッパ各地ではそれを宗教的にも復活を表す儀式や祭りに変化させてきました。有名な復活祭はクリスマスに次ぐ重要な祭日として根付いており、毎年3月21日以降で最初の満月のあとの日曜日という決まりがあるので、今年(2015年)は4月5日(※2021年は4月4日です!)となっています。去年(2014年)は4月20日でしたから、かなり年によって違いがありますね。クリスマスはその点、分かりやすいのにね。さて、復活祭に無くてはならぬアイテムといえばイースター・エッグです。卵は生命の存続と復活を意味するといわれていることから復活祭の象徴となったのですが、現在ではチョコレートでつくった卵やジェリー・ビーンズなどのお菓子を詰めた卵形のプラスチック製容器などで代用されています。この卵を子ども達のところまで運んでくれる動物がおりまして、実はウサギなのです。イースター・バニーと呼ばれています。お菓子をくれる役目なのですが、実はもっと重要なお仕事があるのです。それは、復活祭を前に子どもが良い子だったかそうでなかったかを見極める裁判官のような仕事をすることでした。ともあれ、復活祭は人々の心に春を告げるお祭りであることに変わりありません。ただし私の場合、春の訪れはあま~いチョコレートの卵より、にが~い「蕗の薹」の方がいいな。形も卵にそっくりだしね。ウサギは持って来てくれないので水筒に紅茶を詰めて自分で春を採りに出かけることにいたしましょう。