紅茶農園主のブログ

香りと苦味は春の使者

2021年2月26日

(備北民報 2014年2月25日掲載の連載エッセイ「紅茶の丘の物語(第131回)」より加筆修正したものを掲載します)

 お日様が顔を出して紅茶農園のあちこちを暖めてくれます。日増しに草や木も動き始めてきたように感じます。西洋の諺(ことわざ)に「見つめる鍋は煮えない」というのがありますが、じーっと見つめていたら気がつかないけれど、ふとした瞬間に時の流れを感じることがよくあります。たとえ雪が積もっていたとしても、その下では私たちの目に触れないところで自然は確実に一歩一歩、あゆみ続けているということなのでしょう。

 そんな折、ほとんど雪のなくなった紅茶農園の敷地の中で、春を告げる第一便が到着しました。蕗の薹(ふきのとう)です。日当たりのよい場所を好み、早春にふきの根から生えてくる花茎で土から顔を出します。雪に覆われていても、蕗の薹のところには小さな穴ができるので見つけやすいのです。でもここ数年、雪をかき分けて探すこともなくなりました。雪が少ないということでしょう。数は少なくまだ、ひとつふたつですから大好物の天ぷらにするのはもう少し先でしょうか。山菜が採れ始める季節になると天ぷらとそばで一杯。春ですねぇ。鼻に近づけると特有の芳香がただよい、口に入れると苦みが広がる。紅茶でも春先の紅茶の特徴も同じように香りと渋味にあります。春の恵みは食材の種類をを問わず、生活に彩りを与えてくれます。

 2月19日は二十四節気の雨水(うすい)でした。※(2021年の雨水は2月18日でした)雪が雨に変わる時季とされています。紅茶農園では雨水の前から雨が多くて屋根に溜まった水が凍って農機具小屋の屋根を壊したことは前回の連載(2014年2月18日号)でお話したとおりです。一年を24で割ってみると大体15日ずつ巡ってきます。因みにこれから186年間、雨水は2月18日か19日のどちらかです。安心して来年以降のダイアリーに記入できそうです。今年の場合、次の啓蟄(けいちつ)は3月6日です。その次はいよいよ「春分の日」で3月21日。暖かい春はもうすぐそこまでやってきています。 ※(2021年の啓蟄は3月5日、春分の日は3月20日です)

 さて話を蕗の薹に戻しますと、こんな俳句に出会いました。

 持ち上げし土をまだ出ず蕗の薹(稲畑汀子)

私も一句

 持ち上げし土を踏みしめモグラかな(宮本英治)

農園を歩くとあちこちにモグラの痕跡が発見できます。持ち上げられた土を長靴で踏みしめながら舌打ちする日が増えました。植物も動物もいよいよ活動開始の季節ですね。

(そういえば、昨日のブログの写真にも、もぐらが掘り返した土の山が土留めの横に写ってましたね…(汗) 気になる方…要確認のほどお願いいたします!)