(備北民報 2013年2月26日掲載の連載エッセイ「紅茶の丘の物語(第83回)」より加筆修正したものを掲載します)
紅茶の丘の周辺はまだ土と枯れた草が覆っていますが、間もなくすると花が咲き始めます。2月も下旬になると小鳥たちがあちこちでさえずっています。農園の木々たちはまだ眠りから覚めておらず、もうしばらく寝させておいてくれよと静かに黙って動かない。それでも近寄って観察すると、枝から若芽が少しだけ顔を出しています。もう2週間もすると木々たちは目を覚まし、あっという間に春支度を整えて庭の王様は私だと大きな体をさらに伸ばしてアピールしてきます。朝はうっすらと白い雪が残っていても、やはり春はもうそこまでやってきていると実感します。
そんな時にふと、妻がつぶやいた。「何で春先の花は黄色が多いんだろうねぇ・・・。」えっ? 不意をつかれちょっとびっくり。「そうかなぁ、急にいわれてもわからんなぁ・・・。」と花に詳しくない私はちょいと考える。花の名前を次々と挙げて妻の説明は続きます。「あなたが好きな水仙が黄色でしょう。それに福寿草、タンポポにクロッカス、パンジー。プリムラにラナンキュラス。まだあるよ、チューリップに菜の花も。それにマンサクも!」と次々と出てくる花の名前。確かにそういわれれば・・・。春先の花を見渡してみると確かに黄色が多いです。ふきのとうも黄色みを帯びていますよね。でもどうしてでしょうねぇ・・・。
ものの本を紐解(ひもと)いて調べてみますと、春先にやってきて花粉を運んでくれる虫たちにとって、黄色が最も発見しやすい色なのだとか。直接取材した訳じゃないですが、春先の花にとって最も頼りになる虫のひとつであるアブは黄色が大のお好みなのだそうです。ふむふむ。花もちゃんとお得意さまの好みに合わせているわけだ。庭に咲いている花たちよ! 君たちは人間のために黄色い花を咲かせていたわけじゃないんだね。まあそんなことはどうでもよくて、早く美しい花を咲かせてくださいな。花と虫と人間が喜べればそれが一番。三方丸く収まりますね。ちなみに花の中で最も多い色は黄色(約3割)。第2位は白色系。第3位は赤系だとか。赤の方が多いのかと思ったら白色系が多い。やっぱり虫の好みなのかなぁ。