紅茶農園主のブログ

ゲーテとチョコレート

2021年2月10日

昔は飲み物だったのにね…

(備北民報 2015年2月10日掲載の連載エッセイ「紅茶の丘の物語(第179回)」より加筆修正したものを掲載します)

 16世紀、エリザベス一世が統治していたイギリスでは、国民的飲料としてエールと呼ばれるホップを使用せずにつくられていたビールが庶民の飲み物として広く飲まれていました。貴族階級の人々はエールではなく、ワインや炭酸飲料(サイダー)などを好みました。そこへ登場したのが「チョコレートハウス」。チョコレートを飲む店として大人気でした。

 チョコレートを飲む? 日本人としては何か変な感じがしますね。さて、ロンドンにチョコレートハウスが登場したのは1650年で、今から365年前のことです。当時のチョコレートはかなり高価なもので、やはり貴族階級の上品なサロンで楽しむものとされていました。そして次に登場するのが「コーヒーハウス」。1650年にオックスフォードにイギリス最初のコーヒーハウスが誕生し、ロンドンに誕生したのはその二年後のことでした。当時のオックスフォードには350を超えるエール・ハウス(酒場)がありました。ちなみにエール・ハウスでは現在のパブのように食事は提供されません。あくまでエールのみ。そうしたことから老若男女を問わずアルコール中毒患者が増え、その緩和策として二日酔いに効果があると当時いわれていたコーヒーに人気がでたのだとか。ただし、コーヒーハウスは男性専用でした。

 女性や子どもにも楽しみを味わってもらうためにつくられたものに「ティーガーデン」がありました。主に公園につくられ、娯楽とくつろぎを与える場所として人気が高まりました。ティーガーデンでは紅茶をはじめコーヒーやチョコレートも供され、自分の好きな飲み物を手にガーデンでのんびりと過ごすというスタイルが現在の英国紅茶の基本になっているような気がします。メニューの一番人気は勿論紅茶でしたよ。

 今週末はバレンタインデーを迎えますね。女性が男性にチョコを贈るということですが、男性だってこんな風に女性にプレゼントしているというお話をしましょう。文豪ゲーテは大のチョコレート好き。19世紀に登場した「板チョコ」を恋人(実は愛人)のウルリケ嬢にプレゼントした際、ゲーテ曰(いわく)く「これはお菓子だから決して溶かして飲まないでください」と注意書きを添付したそうです。当時チョコレートは飲み物だったということが窺(うかが)えますね。