(備北民報 2011年11月22日掲載の連載エッセイ「紅茶の丘の物語(第30回)」より加筆修正したものを掲載します)
毎年、秋になると煙突掃除を行います。きれいさっぱりと掃除を終えた煙突は見ているだけでも気持ちよいものです。さあ、これでいつ寒くなっても雪が降っても大丈夫だという安心感が好きです。掃除の仕方は至ってシンプルで、室内に露出しているシングル煙突(ブリキの板だけでさわると熱い)の部分を分解して外へ運び出します。そしてゴシゴシとワイヤーブラシで磨いて煤(すす)をとります。煙突の本体はダブルといって熱が外に伝わらないように、断熱材で巻かれています。これは家の中を抜けているので、熱が伝わると大変。この部分は固定されているために、煙突掃除用のブラシを下から差し込んで上に上にと磨いていきます。煙突の全長が7mあるので次々に棒を継ぎ足しながら、一番上までしっかりと磨きます。煤は煙突の下に受けているナイロン袋に落ちてくるので大丈夫。もう13年(※現在は20年)も繰り返しているので、最近は仕事が早くなりました。2時間ほどで完了します。
ヨーロッパでは昔から煙突掃除人という人がいて、煙突の内部の煤を取り除いていました。煤は邪悪なものとされていて、その煤を取り除き、天(空)と地(地面・床)を結んでくれる人たちを幸福を引き寄せてくれる人として尊敬しました。イギリスの有名なメアリーポピンズという映画の中で「チムチムニー、チムチムニー、チムチムチェリー、私は煙突掃除屋さん♪」と歌うのをご存知の方も多いでしょう。この煙突掃除人に顔に煤をつけてもらうと、幸せになれると言われているんですよ。でも、19世紀くらいまでの煙突掃除の仕事は大変過酷でした。狭い煙道を掃除するために子どもが利用され、事故も多く起きたと言われていてイギリスの小説家ディケンズの「オリヴァー・ツイスト」には、その過酷な様子が描かれています。
さて、掃除の終わった煙突は引きもよくなり、煙がスーッと吸い込まれていく様子は実に気持ち良いものです。これが煙突効果現象。(※コロナ渦の今の時代にもとても重宝する優れものです!)気をつけなければいけないのは春先になって、部屋より外気の方が気温が高いようなときには、うっかりしていると上から下へと空気が逆流して部屋中煙だらけになることも。それでも煙突掃除と優しい暖炉の温もりと、材料の薪の準備は、紅茶道に欠かせぬ冬の楽しみです。